REPORTオープニングセッション
オープニングセッション
アメリカが揺れる分断とインクルージョン
誰もが自由に、ダイバーシティを大切にしながら生きられる社会を
高雄 美紀氏Minori Takao
NHKワールド
エグゼクティブプロデューサー
昨年は、N.Y.のグランドゼロ「911メモリアルプラザ」から生中継いただいた、NHKワールド エグゼクティブプロデューサーの高雄美紀さん。
今回、第27回国際女性ビジネス会議では、マンハッタンのタイムズスクエアとウォール街の間、ワシントンスクエアの近くにある「ストーンウォール・イン」というバーの前から、この国際女性ビジネス会議参加者だけに向けた貴重なライブレポートを届けてくださいました。
「私が今この場所に来ている最大の理由は、このバーがLGBTQ+コミュニティのシンボル的な場所だから」と言い、1969年6月28日ストーンウォール・インに警察が踏み込みLGBTQ+の人々が立ち向かったこと、それがきっかけとなり1970年以降プライドマーチがスタートしたことなどを語ります。
続いて、N.Y.にある島「ファイヤーアイランド」でのドラァグクイーンのイベントを、写真と映像とともに紹介。古くから多くのLGBTQ+コミュニティの人々が暮らしていたこの島で、レストランにドラァグクイーンの服装で入った人が「サーブできない」と追い出されたことに抗議して、皆がドラァグの格好で集まるイベントが1976年から始まった。今では、普段は銀行員や教師やドライバーなど様々な職業の人が、「自分たちの存在を主張したい!」と、7月4日の独立記念日にドラァグクイーンの姿で集まり、フェリーに乗って島を渡り、世界中から人々が訪れるメジャーなイベントになったと言います。
このイベントに取材した高雄さんは、「今、LGBTQ+コミュニティの人々は恐怖を感じています。なぜなら、最高裁判事が中絶や銃規制に関して、今までアメリカの社会が新しく生み出してきた自由や平等を覆すような判断を下し、次は同性婚について考え直す必要があると言ったからです」と、分断に揺れるアメリカの最新事情を伝えます。
「なぜ、せっかくこれまで勝ち取った権利が奪われていくのか。人権、LGBTQ+コミュニティに対する理解など、アメリカは新しい法案や自由を生み出し続けてきたのに、なぜこんなにも簡単に覆されてしまうのでしょうか・・・」
そう問いかけながら高雄さんは、ご自身がインタビューした一人のトランスジェンダー女性の言葉を引用。
「“もし自分が自分の本当のアイデンティティで堂々と生きていられるなら、それは先人の誰かが、あなたのためにその道を切り拓いたから”というパワフルなメッセージを聞いて、誰かが切り拓いてくれたからこそ今堂々と生きられるのだと、改めて私も思い知りました」
今アメリカではさまざまな分断が表面化している。前政権のもとで生まれた最高裁の判事達が、アメリカがこれまで勝ち取ってきた権利を奪おうとしている。そうなると、アメリカを一つの先進事例として見てきた日本や他の国々は、今後一体どうなっていくのか。
「私たちが私たちのために、次の世代のために道を切り開いていくという意味では、アメリカで起きていることは他人事ではない」と、高雄さんは強調します。そして、「女性活躍はもちろんのこと、誰もが自由に、ダイバーシティを大切にしながら生きられる社会をつくっていけたらと思います」
LGBTQ+コミュニティの人々が勝ち取った権利や自由、一方でそれらが覆され、分断に揺れるアメリカ。その一端を知ることができ、また、その空気を日々肌で感じているジャーナリスト高雄美紀さんのまっすぐなメッセージが心に響くセッションでした。