女性の投資が日本経済を動かす
治部 れんげ(F)
昭和女子大学
現代ビジネス研究所研究員/
豊島逸夫事務所 副代表
女性スピーカーが5人登壇するステージは、「女性の投資が日本経済を動かす」と鋭角的なテーマの会議とは思えないほど柔らかく穏やかな空気が漂います。どのような視点で投資をすれば良いのか、女性が参加することでどのように経済が動くのか……ディスカッションのはじまりです。
30年に渡り日本株を仕事としている鹿島美由紀さんは、開口一番、「いま一番嬉しいのは、日本の経済が何十年に一度の大きな転換点を迎えていること。長いデフレから脱却する重要なポイントに来て、日本が大きく変わろうとしていることです」と静かに熱を帯びた話を始めます。そして「日本株に投資している方は?」と会場に問いかけると、3、4割の手が挙がります。資料のチャートを見ながら「日本株が面白い理由」の説明も大変わかりやすく、参加者のみなさんは熱心に聞いています。
「会計士として違った側面から投資を見ている」という金子裕子さんは、「今年の6月から役員の男女別比率を企業が開示するようになり、女性の活躍を企業がアピールする時代になっている。投資は企業に対する応援団。女性の投資が増えると、男性が気づかないような新たな優良企業の発見につながる」と述べ、「コーポレートガバナンスの観点からも、女性の株主が入っていくことは透明性につながる」と言います。
「株式投資は知的な人気投票」とは、中川順子さん。「いろいろな指標を見比べて会社同士が魅力をアピールし、それをみなさんがそれぞれの価値観とものさしで選ぶのが株式投資。そこに少しでも関心を持っていただけると良い」、そして「企業に対して物を言うことは難しいかもしれないが、株主になった途端、物を言える。男女にかかわらず、多様な声が入ることで市場をよくする力になる」と、静かな言葉にも力がこもっています。
国際女性ビジネス会議へのご参加が4回目となる藤沢久美さんは、「15年程前、国際女性ビジネス会議に参加したときは、投資テーマの分科会への参加者は今日の半分ぐらい、その方達の中でも投資をしている人は3、4人しかいなかった。今日は隔世の感をもってここに居る」と過去をふり返ります。続けて、ジェンダーによる投資行動の違いを報告した海外のレポートから、女性の株式投資が増えると良いこととして以下の3点に言及。「企業から見て長期の安定株主が増える、資産運用業界において女性のファンドマネージャーが増えると長期志向が広がる、政府から見ると年金の財源を補う個人の自己防衛を後押しできる」。
ファシリテーターの治部れんげさんは、「女性が投資家になった時に、物を言う株主になり良いガバナンスを求めて行くことが必要。企業の不祥事などは、女性の投資家が増えることによって減っていくのか」と問題提起。
これに対し、「男女にかかわらず、多様な声が入ることで市場をよくする力になる」と中川さん。金子さんは「株主に変わって監視するのは社外取締役。女性や外国人の社外役員を増やすことは、単一ではない価値観で物を見て、おかしいと言える人が増えることにつながる」と指摘。
その後、会場とのディスカッションタイムでは、N.Y.の大学で経済と経営を学んでいる学生の方から「ビジネスサイクル、アメリカの好景気が2017年に転換するとしたらどんな影響があるか?」と質問があれば、中学生からは「日本の経済が良くなったら中学生にも関係あるんでしょうか?」と本質を突く直球の質問も。
また、タンザニア駐日大使の代理の方は、「タンザニアは経済成長率8%、戦争は一度もなく内戦を起こしたこともないアフリカの中で最も平和な国。知識と情熱をもって、関心がある分野にぜひ投資してほしい」とのプレゼンテーションもあるなど、多様な声の行き交うひとときに。最後は大きな拍手でセッションが閉幕しました。
いけだまり さん
消極的なひとりの女性ではなく、積極的に物言う女性投資家へ
冒頭から金融のプロフェッショナルである登壇者の方々より、次々と明るい話題が提供され、会場内の緊張感が消失、明るいムードに。経済は成長局面に入り、借金が多いのは国だけで日本企業は「資産と負債のバランスでは資産がプラス、安全性は高い」(金子さん)こともあって、国内の投資の世界は今「大きく変わろうとしている」(鹿島さん)。実際に、現預金以外の金融商品へ投資をしているかという質問に、会場の8割近くが挙手。私自身はというと、長引くデフレや超低金利のため、やむなく投資を選択したという意識でしかなく、ささやかな配当や株主優待を楽しみにする少額投資、という程度の認識でした。ところが、女性が投資をすることは自分自身のためのみならず、国にも企業にも有益であるとは目から鱗が落ちるようでした。社会保障の大幅な抑制が避けられない国にとっては、男女かかわらず国民の投資活動が重要になるでしょう。「女性は慎重に検討して投資し長期保有する傾向があり、概して男性よりも運用成績が良い」(藤沢さん)ため、女性の投資参加が企業にとっては、長期安定株主を得ることにつながります。「リーマンショック時に女性投資家がもっと大勢いたら」(鹿島さん)と言われているそうですが、投資の世界のダイバーシティ推進が、経済安定に寄与する可能性もあります。「投資は、企業に対する知的な人気投票」(中川さん)であり、私もしっかり学んで、「売ることでNOという、物言う投資家」(鹿島さん)のひとりに加わりたいと思える、ワクワクするような円卓会議でした。
美百合 さん
このテーマを選んだのは、登壇パネリストの方の企業とお付き合いをすることになるのでどんな意識でどんなお話をされるのか?という視点からこの円卓会議に参加しました。
私自身は選んで投資をしていないので株式投資の仕方や考え方、海外投資家の視点などをお聞きして投資することにとても興味を持ちました。
中でも「売ることでもの言う投資になる」というのはもっともな事なのですが怖さも感じます。参加人数は小さめのお部屋に満席くらいでしたが、企業に投資する・企業が投資する両方の企業の話を聞いていて、そして参加者の年齢が以外と若いことで今後はこのテーマの参加者が増えると私は思いましたが、もっと学びの場を増やすことで正しい知識と考え方も啓発してほしいと願います。
「なぜ上ったのか?なぜ下がったのか?」の分析をして自分の視点も上げていきたいと意欲をかきたてられた円卓会議でした。
kazmy3 さん
当セッションのテーマ、女性が投資することによる日本経済へのインパクトについては、同じタイプ、男性ばかりが投資するとマーケットが偏りやすいので、女性が投資に参加するのはマーケット形成にプラスであること。また、リーマンショック時にもし女性幹部がいれば・・・という意見の方が業界内にいる、というコメントが印象的でした。
投資パフォーマンスは女性のほうが高いというレポートもあるとのこと。投資前の調査が綿密、長期投資方針、プロのアドバイスを良く聞いて投資するといった理由からで、アメリカでもイギリスでも個人投資家でもファンドマネージャーでも傾向は同じとのこと。女性株主は口コミに左右されやすい傾向があるが、しっかり勉強して声を出すことで日本経済をよりよくすることができるのでは、とのお話は大変考えさせられました。
その他、会場からは、タンザニア大使代理より、タンザニアは安全で成長率年8%と投資機会のある国であるため是非投資を!というアピールがあったり、子どもの参加者より、「日本の経済が良くなると子どもにも影響はあるのですか?」という本質的かつ鋭い質問が飛び出すなど、興味深いセッションとなりました。
注)出演者の肩書きは開催当時のものです。