「LGBT 大切な働き手、大切な消費者」
市民であり消費者であり、大切な働き手であるLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)について、権利という視点にとどまらずマーケティングや政策という視点からも考えていこうというこの円卓会議。7年前の第13回の会議で初めてLGBTをテーマにした時と違い、今年は100名を超える参加者が集まり、関心の高さがうかがわれます。
初めに、「今年は、3月に渋谷でパートナーシップ条例が決まり、4月に電通ダイバーシティ・ラボからLGBTに関する調査が発表されて注目が固まり、6月にはアメリカで同性婚を認める最高裁の判断が示されるなどLGBTをめぐる話題を目にする機会の増えた年」と、ファシリテーターの山本恵子さんが現状を述べます。
電通ダイバーシティ・ラボで戦略プランナーの仕事をされている阿佐見綾香さんは、LGBTへの関心が高まり、企業やメディアからの要請を受けて2012年に調査をスタートし、今年4月に再度調査を行ったところ、「7.6%、13人に1人がLGBTの当事者であり、その市場規模、約6兆円、日本の百貨店の1年間の売上ぐらいの規模」と、調査結果の一部を発表。そして、「LGBTの理解が深まれば、当事者にとって生きやすい社会になると同時に、多様なサービスや人財が提供されてマーケット全体が活性化する。LGBTに取り組むことが企業の価値を上げる」と強調しました。
続いて、2003年、まだ戸籍の性別を変えることができなかった時代の統一地方選挙に性同一性障害を公表のうえ出馬し、世田谷区議会議員に当選した上川あやさんは、「街頭に立ってカミングアウトした時、街の人々の反応は、最初は罵倒、1週間経つと沈黙に変わった。2週間すると缶コーヒーを渡してくれる人が出て来たり。当選したらその週の内に『徹子の部屋』から出演オファーが(笑)」と当時を振り返り、人々のリアルな反応を語ります。
それ以前は、戸籍の性別が変えられなかったことで、住民票を出して家は借りられない、年金手帳を出して正社員にはなれない、健康保険証を出して医者にかかることは無理など、トランスジェンダーの当事者として「人は誰でも社会的な存在である、社会制度や常識が変わらないと生きづらい」と感じていたと言います。
現在は世田谷区議会議員として、6割の書類から性別を削除、性差別をなくす世田谷区の10年行動計画策定などをはじめ、様々な取り組みによって「東京最大の街、世田谷区から大きく変えていきたい」と熱く表明。
デンマーク大使館の上席政治経済担当官であり、昨年EMA日本という同性結婚の法制化を求めるNPOを設立した寺田和弘さんは、「20代の頃住んでいたデンマークでは1989年に事実上の同性婚が認められ、ゲイやレズビアンが特別視されていなかった。現在の日本ではLGBTへのあからさまな暴力などの差別は少ないが、性指向については同性婚ができないこと、性自認については性別変更が自由でないという差別がある。少なくとも法律上は平等にしなければLGBTに対する社会の差別や偏見はなくならない」。さらに、「20代後半にゲイであることを両親にカミングアウトした時、親は混乱し、理解するまでに数カ月かかったが、その後親密に話し合える親子関係になった。ところがその時、親は思春期の頃に息子の悩みに気づけなかったことに自責の念を感じていた」と、ご自身の体験を静かに話されました。そして、「当事者が自責の念を感じるような、そういうことを一日も早く日本からなくしたい」と結びました。
後半は質疑応答タイムへ。企業でダイバーシティ推進を行っている方からは「LGBTの人が社内にも居る。最近、入社することになった。本人はカミングアウトをすると言うが、受け入れ側はどう配慮、準備すればいいのか?」。大阪のLGBTのアートグループという男性からは「イベントを告知すると、本当に知ってほしいLGBT以外の人が集まらない。広報するのに効果的なメディアがあれば知りたい」。さらに、「性転換をした場合プライバシーが守られるのか、オープンであるべきなのか。現状はどうか」、「日本のトップが変わらないのにLGBTを推進できるのか」、「サービスを提供する小売業に期待されることはなにか」など、様々な問いが参加者から発せられました。
スピーカーご自身の貴重な体験談に心を動かされ、また、最新の調査結果に今後への可能性を感じ、LGBTへの理解がまた少し深まった1時間でした。
ayako7777 さん
目からうろこ
とにかく知らないことばかりで、何度も目から鱗が落ちたセッションでした。「レインボー消費」と名付けられた関連消費の規模が5.9兆円であるということに一番驚きました。次に驚いたのがデンマークの実態。同性婚を初めて認めた国で、自己申告のみで性別変更ができるLGBT先進国。性同一障害で苦しんでいたことを証明する必要もなく、自分の性別は自分で決められるという考え方は革新的であるようですが、性別変更が簡単にできないというのは基本的に生まれた体の性のままでいることを強要する価値観なので、そちらの方が実はおかしいのではないかと初めて気づくことができました。日本では自分の性別を記入する機会が非常に多いですが、デンマークでは性別情報がほとんど意味を持たなくなってきており、取得されることはほとんどないとか。これもよく考えたら本当に必要なケースはほとんどないことに気づきました。「彼女いるの?」という言い方も相手が女性だと決めつけていることになっているので、「好きな人はいるの?」という言い方が適切であるということもよい学びでした。マイノリティの気持ちは理解があると勝手に思い込んでいたのですが、謙虚に学んでいこうという気持ちになれました。
kazuoi さん
LGBTという切り口で考える
LGBTという言葉自体は知ってはいたが、それを働き手・消費者という視点でとらえ、考えることは今までなかった。その視点を考えてみたくこの会議を選択した。流通業で勤務する私にとってはLGBTという切り口は新鮮だった。どうしても性別上の切り口が「男女」しかなく、例えば衣料品でも「紳士」「婦人」という分類が主立っており、LGBTの視点は皆無に等しい。しかし、電通調査での市場規模が5.9億円ということからも、看過できない規模になっていると痛感した。
ただ、従業員にどう浸透させるのか、売り場をどうするのか、など今のフォーマットからの転換はハードルが高いように思った。LGBT自体は言葉として徐々に浸透しているように思うが、それで終わっているように日々思う。その点で従業員等に浸透させるにはかなりの力が必要だと感じた。
今回の会議ではどちらかというとLGBTの本質論的な議論が多く、消費者・働き手としての考えや議論は若干少なかったように思う。今後もっと身近になるであろうLGBTというでの考え方を日々考えていきたい。
Kylin さん
今回の『第20回国際女性ビジネス会議』に参加しようと思ったきっかけがこのセッションです。私は、数年前からオフタイムにアート・ディレクターを務めています。イベントの中で、いわゆる「LGBT」と呼ばれるマイノリティに属すアーティスト、パフォーマと多く関わってきました。そこには、”ストレート”の人間が思いもかけない状況で傷つき、障害に直面している人間の姿がありました。寺田和弘氏が紹介した事例でもある”ストレート”の人間が気が付かない状況、生活の様々なシーンで、性別による振分けがされていることにおいて、メンバーは立ちすくんでしまいます。
セッションで印象に残ったのは、阿佐見綾香さんがおっしゃった「表現する性」という言葉です。私は、これを「身体的性」「精神的性」「恋愛対象としての性」に次ぐ「第4の性」として捉えています。「LGBT」アーティスト・パフォーマの表現に関する感覚には、素晴らしいものがあります。今後に期待する展望、それは、今回開催されたセッションが不必要になる社会。つまり「LGBT」を意識せずに、彼らの選択が当たり前になる社会です。
いのくち さん
日常の中で考え続けていきたい
もう十年以上も前のこと、尊敬する仕事関係の方から、「世田谷区で、性同一性障害を公表して区議に立候補した方がいるので応援している」と知らされました。それがこの円卓会議のスピーカーのお一人、上川あやさんでした。ですから魅力的なテーマの並ぶ円卓会議のリストの中から迷わず選びました。
おりしも、同僚がLGBTに関する書籍を出したばかりで、このテーマへの理解を深めたいというタイミングでしたので、話のすべてが興味深かったです。特に、LGBTを抱える方が世間とのやり取りの中でどのように感じていらしたのか、それを生の声で聞くことができたことが収穫でした。もしかしたら私の周りにも、声を上げてないけどLGBTの方がいるかもしれない。そのときに、どのようにフラットに付き合えるかということを考えながら円卓会議に参加しました。
人間性に関わる深いテーマであり、そして、世間認識レベルではまだ歴史の浅いテーマであるため、質問タイムには何から聞いてよいのか本当に困りました。そうして迷っているときに、他の参加者の方が、「LGBTの方はどのように接してもらうことを望んでいらっしゃいますか」と聞いてくださり、それに対して、「まずLGBTというものがあることを知ってほしい。そして、受け入れてほしい」と話されたので、世にあるさまざまな差別や偏見と同じように、まず知ること、そして受け入れることから始まるのだと思いました。
特別な場だけで考えるのではなく、日常生活でも多様性を意識していこうと考えました。
みんつ さん
「個性を区別する社会を生きる」
私がこの円卓会議を選択した理由は、「LGBTとは何か?」という好奇心からでした。そして、自分とは遠い問題だと認識しておりました。この円卓会議に参加して、勇気と行動力とを兼ね備えたパネラーの皆様に感動しました。また内容が深まるにつれ、私の内面に向かって、「性別とは何か?」という問いが大きくなり、質問をさせていただきました。
「形の無い心に性別はあるのでしょうか?」上川氏の回答は「心の性別は自分らしさ。個性です」と明解にして、この問題の根深さを示唆していました。私はこの日本社会で自分を公私ともに外見内見ともに「女」だと疑いもせず、女だからと差別も区別も受けて生きてきました。でも、LGBTではこの区別すらも不一致な個性を持った生き辛さがあるのを知り、「社会が個性を区別する必要があるのだろうか?」という問いをいただいて帰りました。これはLGBTだけではない、個性を区別する社会を生きる自分にとっても身近な問題だと認識を改めました。
注)出演者の肩書きは開催当時のものです。